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障がい者が社会にまじわるとき、芸術やアートはその一助となるのだろうか。

障がいのある人が生み出すアートのおもしろさとは。3人の有識者による、特別座談会。

 

安田香実 やすだ・かぐみ

TASCぎふアートサポーター。長年、未就学児を中心とする障がい児支援に従事し、現在は各務原市内の福祉施設に勤務。言語聴覚士として吃音の子どもの支援に力を入れる。

 河合千尋 かわい・ちひろ

岐阜市内で健康マッサージ「河合治療院」を経営。生まれつき視覚に障害がある。音楽をこよなく愛し、観賞するだけでなく、ピアノの演奏や歌を唄う。2018年TASCぎふ開所式にて歌を披露した。

 豊富春菜 とよとみ・はるな

美術家。写真をもとにした絵画作品を多数発表。TASCぎふの活動に参画し、オープンアトリエや幼稚園での絵画教室にも携わる。

 

豊富 私はTASCぎふの仕事に関わるまで、福祉の分野について無知でした。ここで障がいのある方々の創作活動支援の仕事を始めて、非常に多数の福祉施設があることに驚いたんです。私自身が無関心だったというだけでなく、そもそも社会的に障がい者が分けられてきたということを感じました。

安田 近年、ダイバーシティという言葉がよく使われているように、障がい者だけではなくて少数派の方々による情報発信が増えてきて、昔に比べたら福祉の世界のことを知っている人は増えたような気はします。でも、福祉従事者としての立場から見れば、障がい者が社会的に認められているかというと、まだまだです。社会的な分断は国籍やLGBTQ、認知症、貧困など、障がいだけの問題ではないですよね。

河合 障がいのある人とない人の分断があるなかで、本当に優れたアーティストというのは障がいを越えてしまいます。ピアニストの辻井伸行さんが世界的なコンクールで優勝したのは、目が見えないからではありません。スティーヴィー・ワンダーも目が見えないから尊敬されているわけではなくて、彼の真摯な態度が尊敬されているのです。われわれ障がい者が、障がい者であることを忘れさせるようなパワーを持たないといけないんじゃないかと思っています。

安田 本当にそう思います。これまでTASCぎふの活動を通して、障がいのある方の色々な作品に出会ったけれど、すごく表現にパワーがある。作品のパワーに触れると、作者がどんな人なのか知りたくなるんですよね。

豊富 パワーがある作品に出会ったときに感動するし、優れた作品や作家を尊敬します。ただ、優れた才能だけが評価されるのではないアートとの関わり方も大切に感じています。例えばオープンアトリエや施設で出会う方の中には夢中になって絵を描く方がいます。好きなことにのめり込み、目的や役割を超えたところでそれを楽しみつくすというのは、制作する喜びを分かち合い、その過程や作品として形になったときにお互いの存在に共鳴できるし、その共鳴が障がいのあるなしを超える力になるのではないでしょうか。健常と呼ばれる人たちが共鳴できるアンテナを持っているかどうか…。もしそういうアンテナが退化してしまっているとしたら、それを取り戻せるかどうかという、見る側の問題でもありますよね。

河合 目の見えない僕からすると、健常者の方にはもっと聴覚を養って欲しいと思います。どういうトーンでどの部分の語気が強いのかというニュアンスをよく聞いていくと真意が分かるんです。

豊富 アートはそもそも役に立つか立たないか分からないという、そういうところに私は魅力を感じています。例えば子どもが大胆にうわっと絵を描いて、紙でないものに描いたとき、「どうしてこんなに汚しちゃうの」と言う親御さんがいるけれど、紙以外のものに描いてはいけないという無意識のうちにはめてしまっている“枠”があります。この“枠”を外すことがアートにはできると思っています。私自身、アートを介した障がいのある方々との交流の中で、自分の中の“枠”に気づいたり考えたりすることはとても大切な経験です。

安田 私も自分の凝り固まった概念や価値観を外していくことが大切だと常々感じています。芸術はノンバーバルですよね。例えば音楽だと響きやリズムでコミュニケーションができます。「トントン」って叩くと「トン」って返すとか、言葉ではキャッチボールできない人が音でならコミュニケーションがとれるということがあって、普段と全然違う姿が出てくるんですよ。

豊富 芸術を通して社会的な分断を越えてコミュニケーションが取れたり、共鳴し合える一方で、誰もがインターネットを通して情報にアクセスできることによって社会的な分断ができてしまっていると思います。インターネットは自分が欲しい情報だけがどんどん集まってくるようなシステムだから、どうしても偏った情報になってしまうんですよね。それをどう越えて、まじわるのか…私にはまだ答えは見つかっていません。

河合 僕は映画が好きで、よくガイドヘルパーさんと映画を観に行きます。映画を観て何が楽しいかというと、見える人に分からないシーンを足してもらうことです。もちろんその人の感性や思い込みもあるんですけど、ストーリーが足されていくことがおもしろい。セリフのないシーンはたくさんあるので、話を聞くことで、そういうことだったのかと確認するのがおもしろくて映画を観ます。障がい者が社会にまじわっていくことや、健常者とのつながりはそういうところかなと思います。

安田 私もまさにそういうことだと思っています。普段、福祉施設で対話型鑑賞法をしていて、作品を他者と共有して、自分と違う視点を持っている人の作品の捉え方に触れることで、自分の作品の捉え方が広がって、アートをもっと深く味わえる。そういうときに、表現した人や一緒に鑑賞をした人たちとつながったと感じます。